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にかいから

二階から

岡本 綺堂

「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页

青空文庫

暗い夜を薬取りの使にも行ってくれた。目見得も済んで、翌日から私の家に居着くこととなった。

彼女は何方かといえば温順過ぎる位であった。寧ろ陰気な女であった。しかし柔順で正直で骨を惜まずに能く働いて、どんな場合にも決して忌そうな顔をしたことはなかった。好い奉公人を置き当てたと家内の者も喜んでいた。私も喜んでいた。すると四、五日経った後、妻は顔を皺めてこんなことを私に囁いた。

「おたけはどうもお腹が大きいようですよ。」

「そうかしら。」

私には能く判らなかった。なるほど、小作りの女としては、腹が少し横肥りのようにも思われたが、田舎生れの女には随分こんな体格の女がないでもない。私はさのみ気にも止めずに過ぎた。

おたけはいくらか文字の素養があると見えて、暇があると新聞などを読んでいた。手紙などを書いていた。ある時には非常に長い手紙を書いていたこともあった。彼女は用の他に殆ど口を利かなかった。いつも黙って働いていた。

彼女は私の家へ来る前に青山の某軍人の家に奉公していたといった。七人の兄妹のある中で、自分は末子であるといった。実家は農であるそうだが、あまり貧しい家ではないと見えて、奉公人としては普通以上に着物や帯なども持っていた。