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にかいから

二階から

岡本 綺堂

「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页

青空文庫

二 団五郎

K君の忰は蕾ながらにして散ってしまったのである。私の家の水仙はその蕾さえも持たずして、空しく枯れてしまうであろうと思われた。

年が明けた。ある暖い朝、私がふとかの水仙の鉢を覗くと、長く伸びた葉の間から、青白い袋のようなものが見えた。私は奇蹟を目撃したように驚いた。これは確に蕾である。それから毎日欠さずに注意していると、葉と葉との間からは総て蕾がめぐんで来た。それが次第に伸びて拡がって来た。もうこうなると、発育の力は実に目ざましいもので、茎はずんずんと伸てゆく。蕾は日ましに膨らんでゆく。今ではもう十数輪の白い花となって、私の書棚を彩っている。

殆ど絶望のように思われた水仙は、案外立派に発育して、花としての使命を十分果した。K君の忰は花とならずして終った。春の寒い夕、電灯の燦たる光に対して、白く匂いやかなるこの花を見るたびに、K君の忰の魂のゆくえを思わずにはいられない。

二 団五郎

新聞を見ると、市川団五郎が静岡で客死したとある。団五郎という一俳優の死は、劇界に何らの反響もない。少数の親戚や知己は格別、多数の人々は恐らく何の注意も払わずにこの記事を読み過したであろう。