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にかいから
二階から
岡本 綺堂
「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页
三 茶碗
彼は楽屋で見たよりも更に美しく見えた。私は団五郎が好きになった。
けれども、彼はその後いつも眼に付くほどの役を勤めていなかった。番附をよく調べて見なければ、出勤しているのかいないのか判らない位であった。その中に私もだんだんに年を取った。団五郎に対する記憶も段々に薄らいで来た。近年の芝居番附には団五郎という名は見えなくなってしまった。二十何年ぶりで今日突然にその訃を聞いたのである。何でも旅廻りの新俳優一座に加わって、各地方を興行していたのだという。それ以上のことは詳しく判らないが、その晩年の有様も大抵は想像が付く。
日本一の名優の予言は外れた。団五郎は遂にものにならずに終った。師匠の眼識違いか、弟子の心得違いか。その当時の美しい少年俳優がこういう運命の人であろうとは、私も思い付かなかった。
三 茶碗
O君が来て古い番茶茶碗をくれた。おてつ牡丹餅の茶碗である。
おてつ牡丹餅は維新前から麹町の一名物であった。おてつという美人の娘が評判になったのである。元園町一丁目十九番地の角店で、その地続きが元は徳川幕府の薬園、後には調練場となっていたので、若い侍などが大勢集って来る。