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ひとでなしのこい

人でなしの恋

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页

青空文庫

ひょっとしたら、娘心のあさはかにも、根もないことを疑って、無駄な苦労を求めているのではないかしら、幾度か、そんな風に反省して見ましても、一度根を張った疑惑は、どう解こうすべもなく、ともすれば、私の存在をさえ忘れ果てた形で、ぼんやりと一つ所を見つめて、物思いに耽っているあの人の姿を見るにつけ、やっぱり何かあるに相違ない、きっときっと、それに極っている。では、もしや、あれではないのかしら。といいますのは、門野は先から申します様に、非常に憂鬱なたちだものですから、自然引込思案で、一間にとじ籠って本を読んでいる様な時間が多く、それも、書斎では気が散っていけないと申し、裏に建っていました土蔵の二階へ上って、幸いそこに先祖から伝わった古い書物が沢山積んでありましたので、薄暗い所で、夜などは昔ながらの雪洞をともして、一人ぼっちで書見をするのが、あの人の、もっと若い時分からの、一つの楽みになっていたのでございます。それが、私が参ってから半年ばかりというものは、忘れた様に、土蔵のそばへ足ぶみもしなくなっていたのが、ついその頃になって、又しても、繁々と土蔵へ入る様になって参ったのでございます。