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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
三
三
「変だな」と気がついたのは、御婚礼から丁度半年ほどたった時分でございました。今から思えば、あの時、門野の力が、私を可愛がろうとする努力が、いたましくも尽きはててしまったものに相違ありません。その隙に乗じて、もう一つの魅力が、グングンとあの人を、そちらの方へひっぱり出したのでございましょう。
男の愛というものが、どの様なものであるか、小娘の私が知ろう筈はありません。門野の様な愛し方こそ、すべての男の、いいえ、どの男にも勝った愛し方に相違ないと、長い間信じ切っていたのでございます。ところが、これほど信じ切っていた私でも、やがて、少しずつ少しずつ、門野の愛に何とやら偽りの分子を含むことを、感づき初めないではいられませんでした。……………………そのエクスタシイは形の上に過ぎなくて、心では、何か遙なものを追っている、妙に冷い空虚を感じたのでございます。私を眺める愛撫のまなざしの奥には、もう一つの冷い目が、遠くの方を凝視しているのでございます。愛の言葉を囁いてくれます、あの人の声音すら、何とやらうつろで、機械仕掛の声の様にも思われるのでございます。でも、まさか、その愛情が最初から総て偽りであったなどとは、当時の私には思いも及ばぬことでした。