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ひとでなしのこい

人でなしの恋

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页

青空文庫

五

一そ思い切って、ここを開けて頂いて、母屋から離れた蔵の中を幸いに、今夜こそ、日頃の疑いを夫の前にさらけ出して、あの人の本当の心持を聞いて見ようかしら。などと、とつおいつ思い惑って、落し戸の下に佇んでいました時、丁度その時、実に恐ろしいことが起こったのでございます。

五

その晩、どうして私が蔵の中へなど参ったのでございましょう。夜更けに蔵の二階で、何事のあろう筈もないことは、常識で考えても分りそうなものですのに、ほんとうに馬鹿馬鹿しい様な、疑心暗鬼から、ついそこへ参ったというのは、理窟では説明の出来ない、何かの感応があったのでございましょうか。俗にいう虫の知らせでもあったのでございましょうか。この世には、時々常識では判断のつかない様な、意外なことが起るものでございます。その時、私は蔵の二階から、ひそひそ話の声を、それも男女二人の話声を、洩れ聞いたのでございました。男の声はいうまでもなく門野のでしたが、相手の女は一体全体何者でございましょうか。

まさかまさかと思っていました、私の疑いが、余りに明かな事実となって現れたのを見ますと、世慣れぬ小娘の私は、ただもうハッとして、腹立たしいよりは恐ろしく、恐ろしさと、身も世もあらぬ悲しさに、ワッと泣き出したいのを、僅にくいしめて、瘧の様に身を戦かせながら、でも、そんなで