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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
、あとをつけて見たこともなく、従って蔵の二階だけが、これまで、私の監視を脱れていたのでございますが、それをすら、今は疑いの目を以て見なければならなくなったのでございます。
お嫁入りをしましたのが春の半、夫に疑いを抱き始めましたのがその秋の丁度名月時分でございました。今でも不思議に覚えていますのは、門野が縁側に向うむきに蹲って、青白い月光に洗われながら、長い間じっと物思いに耽っていた、あのうしろ姿、それを見て、どういう訳か、妙に胸を打たれましたのが、あの疑惑のきっかけになったのでございます。それから、やがてその疑いが深まって行き、遂には、あさましくも、門野のあとをつけて、土蔵の中へ入るまでになったのが、その秋の終りのことでございました。
何というはかない縁でありましょう。あの様にも私を有頂天にさせた、夫の深い愛情が(先にも申す通り、それは決して本当の愛情ではなかったのですけれど)たった半年の間にさめてしまって、私は今度は玉手箱をあけた浦島太郎の様に、生れて初めての陶酔境から、ハッと眼覚めると、そこには恐しい疑惑と嫉妬の、無限地獄が口を開いて待っていたのでございます。