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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
六
六
それ以来、私は幾度闇夜の蔵へ忍んで参ったことでございましょう。そして、そこで、夫達の様々の睦言を立聞きしては、どの様に、身も世もあらぬ思いをいたしたことでございましょう。その度毎に、どうかして相手の女を見てやりましょうと、色々に苦心をしたのですけれど、いつも最初の晩の通り、蔵から出て来るのは夫の門野だけで、女の姿なぞはチラリとも見えはしないのでございます。ある時はマッチを用意して行きまして、夫が立去るのを見すまし、ソッと蔵の二階へ上って、マッチの光でその辺を探し廻ったこともありましたが、どこへ隠れる暇もないのに、女の姿はもう影もささぬのでございます。またある時は、夫の隙を窺って、昼間、蔵の中へ忍び込み、隅から隅を覗き廻って、もしや抜け道でもありはしないか、又ひょっとして、窓の金網でも破れてはしないかと、様々に検べて見たのですけれど、蔵の中には、鼠一匹逃げ出す隙間も見当たらぬのでございました。
何という不思議でございましょう。それを確めますと、私はもう、悲しさ口惜しさよりも、いうにいわれぬ不気味さに、思わずゾッとしないではいられませんでした。そうしてその翌晩になれば、どこから忍んで参るのか、やっぱり、いつもの艶めかしい囁き声が、夫との睦言を繰返し、又幽霊の様に、いずことも知れず消え去ってしまうのでござい