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ひとでなしのこい

人でなしの恋

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页

青空文庫

あなたは御みやげ人形といわれるものの、不思議な凄味を御存知でいらっしゃいましょうか。或は又、往昔衆道の盛んでございました時分、好き者達が、馴染の色若衆の似顔人形を刻ませて、日夜愛撫したという、あの奇態な事実を御存知でいらっしゃいましょうか。いいえ、その様な遠いことを申さずとも、例えば、文楽の浄瑠璃人形にまつわる不思議な伝説、近代の名人安本亀八の生人形なぞを御承知でございましたなら、私がその時、ただ一個の人形を見て、あの様に驚いた心持を、十分御察し下さることが出来ると存じます。

私が長持の中で見つけました人形は後になって、門野のお父さまに、そっと御尋ねして知ったのでございますが、殿様から拝領の品とかで、安政の頃の名人形師立木と申す人の作と申すことでございます。俗に京人形と呼ばれておりますけれど、実は浮世人形とやらいうものなそうで、身の丈三尺余り、十歳ばかりの小児の大きさで、手足も完全に出来、頭には昔風の島田を結い、昔染の大柄友染が着せてあるのでございます。これも後に伺ったのですけれど、それが立木という人形師の作風なのだそうで、そんな昔の出来にも拘らず、その女児人形は、不思議と近代的な顔をしているのでございます。