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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
その半年の間を、どの様にして暮しましたことやら、ただもう楽かったと申す外に、こまごましたことなど忘れても居りますし、それに、このお話には大して関係のないことですから、おのろけめいた思出話は止しにいたしましょうけれど、門野が私を可愛がってくれましたことは、それはもう、世間のどの様な女房思いの御亭主でも、とても真似も出来ないほどでございました。無論私は、それをただただ有難いことに思って、いわば陶酔してしまって、何の疑いを抱く余裕もなかったのでございますが、この門野が私を可愛がり過ぎたということには、あとになって考えますと、実に恐しい意味があったのでございます。といって、何も可愛がり過ぎたのが破綻の元だと申す訳ではありません、あの人は、真心をこめて、私を可愛がろうと努力していたに過ぎないのでございます。それが決して、だましてやろうという様な心持ではなかったのですから、あの人が努力すればするほど、私はそれを真に受けて、真から手頼って行く、身も心も投げ出してすがりついて行く、という訳でございました。ではなぜ、あの人がそんな努力をしましたか、尤もこれらのことは、ずっとずっと後になって、やっと気づいたのではありますけれど、それには、実に恐ろしい理由があったのでございます。