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じんがいまきょう

人外魔境

小栗 虫太郎

小栗虫太郎『人外魔境』。同一底本的分册已合并为一书。收入:人外魔境、人外魔境、人外魔境、人外魔境。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 101,713 字 · 205 页

青空文庫

……宝の山の鰻のにおいを嗅ぐ、セルカークはことにそうであった。

「畜生、せっかく此処まで来てとは、なんてえこった。オクタン価八〇、最良航空用燃料もなにも、夢になりおった。オヤッ、ありゃ折竹君、なんだね」

と、指差された薄明の地平線上。突兀とみえる驕魔台のうえに、まるで目の狂いかのような、人影がみえるのだ。早速、双眼鏡でみているうちに暁はひろがってゆく。しかし、死の原のここに、鳥の声はない。ただ、薄らぐ寒さと魔性のような人影。やがて、折竹はボロリと眼鏡を落し、

「ザチ」

と、さながら放心したような呟き、

「ザチ※(疑問符感嘆符、1-8-77) いったい何のこったね」

とセルカークが訊いても聴えぬかのように、

「覗き穴はある。ザチはソ連の女ではなかった。真実、『大盲谷』に住むキンメリアの女王。おい、セルカーク、あれを見ろ」

いわれて、目をこすりこすり驕魔台のうえをみると、今いた――ほんの秒足らずの瞬前までくっきりと見えていた、ザチの姿が掻き消えたように見えないのだ。覗き穴、彼女は「大盲谷」へ降りたのだろう。しかし、追おうにも、暁は濃い。朝の噴射とともに熱殺界となる、此処ではどうにもならないのだった。