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あだうたれげさく
仇討たれ戯作
林 不忘
「オール読物」1934(昭和9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 21 页
「菊池太助さまとおっしゃる方がお見えになりましてござりますが。」
と言った時六樹園は誰だかわからなかった。もう一度訊き返せと命じて婢を玄関へ去らせた。するとすぐ引きかえして来て、
「しゃらくさい、とおっしゃるだけで。」
と女中は口を覆って笑った。
「洒落斎、おう、式亭どのか。」
と六樹園はその一代の名著雅言集覧の校正の朱筆を投じて立って三馬を迎い入れた。
語る相手欲しい時だったので六樹園は雀躍せんばかりで、談はすぐ最近の文壇の傾向へ入って行った。
どうせ無頼な戯作者だと六樹園は三馬を卑しめて見ていたが、この男と言葉を交える前に日頃から不審に耐えないと思っている彼の態度についてまずこの機会に訊いてみたいと六樹園は思った。
で、話が進む前に六樹園は切り出した。
「尊家は仙方延寿丹、または江戸の水とやら申す化粧水を売り出し、引札を書き、はなはだしきは御著作の中にその効能を広告なさるということですが、真実ですか。もしほんとうならどういうおこころでそういうことをなさるるかそれを伺いたい。」
三馬は意外だという顔をした。
「さようなことは私ばかりではげえせん。京伝の煙草入れ、煙管、近くは読書丸、ともに自ら引札も書き、また作品のなかで広告をいたしておりやす。