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いまどしんじゅう

今戸心中

広津 柳浪

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页

青空文庫

四

「いい気味だ。謝罪せてやッた」

「ははははは。お梅どんに擽られてたまるもんか。男を擽ぐる急所を心得てるんだからね」

「何とでもおっしゃい。どうせあなたには勝いませんよ」と、お梅は立ち上りながら、「御膳はお後で、皆さんと御一しょですね。もすこししてからまた参ります」と、次の間へ行ッた。

誰が覗いていたのか、障子をぴしゃりと外から閉てた者がある。

「あら、誰か覗いてたよ」と、お梅が急いで障子を開けると、ぱたぱたぱたぱたと廊下を走る草履の音が聞えた。

「まア」と、お梅の声は呆れていた。

四

「どうしたんだ」と、西宮は事ありそうに入ッて来たお梅を見上げた。

「善さんですよ。善さんが覗いていなすッたんですよ」と、お梅は眼を丸くして、今顔を上げた吉里を見た。

「おえない妬漢だよ」と、吉里は腹立たしげに見えた。

「さっきからね、花魁のお座敷を幾たびも覗いていなさるんですよ。平田さんが怒んなさりゃしまいかと思ッて、本統に心配しましたよ」

「あんまりそんな真似をすると、謝絶ッてやるからいい。ああ、自由にならないもんだことねえ」と、吉里は西宮をつくづく視て、うつむいて溜息を吐く。

「座敷の花魁は遅うございますことね。