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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
志摩子さんと云って、弘一君の従妹で、ずっと以前に両親を失ってから、少将邸に引取られて育てられた人だ。女学校をすませて、当時は音楽の稽古に熱中していた。ヴァイオリンは一寸聞ける位弾けた。
私達は天気さえよければ海岸で遊んだ。結城邸は由井ヶ浜と片瀬との中間位の所にあったが、私達は多くは、派手な由井ヶ浜を選んだ。海には、私達四人の外に、沢山男女の友達があったので、飽きることがなかった。紅白碁盤縞の並より大きいシーショア・アンブレラの下で、私達は志摩子さんやそのお友達の娘さん達と、真黒な肩を並べてキャッキャッと笑い興じた。
私達は又、海にあきると、結城邸の池で鯉釣をやった。その大きな池には、少将の道楽で、釣堀みたいに、沢山鯉が放ってあったので、素人にもよく釣れた。私達は将軍に釣の骨を教わったりした。
実に自由で、明るくて、のびやかな日々であった。だが不幸という魔物は、どんな明るい所へでも、明るければ明るい程、それをねたんで、突拍子もなくやって来るものである。
ある日少将邸に時ならぬ銃声が響いた。この物語はその銃声を合図に、幕があくのである。
ある晩、主人の少将の誕生祝だというので、知人を呼んで御馳走があった。