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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
……イヤイヤ、その考え方がいけないのだ。もっと別の解釈がある筈だ。松村君、君は覚えているかね。僕は此間波多野さんに現場の見取図を見せて貰って、要点だけは記憶している積りだが、あの足跡には変な所があったね。賊が女みたいに内輪に歩く奴だということも一つだが、これも無論非常に大切な点だが、その外に、もっと変な所があった。波多野さんは、僕がそれを注意しても、一向気にも留めなかった様だ。多分君も気づかないでいるだろう。それはね、往きの足跡と帰りの足跡とが、不自然に離れていたことだよ。ああした場合、誰しも一番早い道を選ぶのが自然ではないだろうか。つまり二点間の最短距離を歩く筈ではないだろうか。それが、往きと帰りの足跡が、井戸と洋館の窓とを基点にして外にふくらんだ二つの弧を描いている。その間に大きな樹木がはさまれていた程だ。僕にはこれがひどく変に思われるのだよ」
これが弘一君の物の云い方である。彼は探偵小説が好きな程あって、甚だしく論理の遊戯を好む男であった。
「だって君、あの晩は闇夜だぜ。それに賊は人を撃って慌てているのだ。来た時と違った道を通る位別に不自然でもないじゃないか」