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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
その同じ瞬間に、父少将は、どうしたかというと、彼は不思議なことに息子の傷を見ようともせず、先ず第一に、部屋の隅にあった小金庫の前へ飛んで行って、文字盤を合わせて、扉を開き、その中を検べたのである。これを見て、私は妙に思った。この家に金庫があるさえ心得ぬに、手負いの息子を放って置いて、先ず財産を検べるなんて、軍人にもあるまじき仕草である。
やがて、少将の云いつけで、書生が警察と病院へ電話をかけた。
母夫人は気を失った結城君の身体にすがって、オロオロ声で名を呼んでいた。私はハンケチを出して、出血を止める為に、弘一君の足をしばってやった。弾丸が足首をむごたらしく射抜いていたのだ。志摩子さんは気を利かして、台所からコップに水を入れて持って来た。だが、妙なことには、彼女は夫人の様には悲しんでいない。椿事に驚いているばかりだ。どこやら冷淡な風が見える。彼女はいずれ弘一君と結婚するのだと思い込んでいた私は、それが何となく不思議に思われた。
併し不思議と云えば、金庫を検べた少将や、妙に冷淡な志摩子さんより、もっともっと不思議なことがあった。
それは結城家の下男の、常さんという老人のそぶりである。