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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

二

二

振袖が襖の隙間から覗いたかと思うと、千満子、春子、信子、寿子の順に部屋にはいって来た。正月の晴着だった。

「いよう! 皆揃うたな。女ばっかり並びくさって、こら、カフェーやな。おん者らカフェーの女給や。お父さんに酌せエよ。」

権右衛門は泪を流さんばかりに上機嫌だ。今年から元旦には訪問客に酒を出すことになり、「まあ、一つやっとくなはれ」と朝から客の相手をして来たので、大分廻っているのである。

「まあ、いやなお父さん」

振袖の中に顔を埋めたのを見て政江は権右衛門の下品な言葉使いをたしなめねばならぬと思った。娘たちの縁談の手前もある。一座している者が内輪の者ばかりでよかったものがこれが若し……が、今は黙っていることにした。一度だけだが、酔うている権右衛門に抗ってひどい目に会うた経験がある。

「おん者ら、一ちょう浪花節掛けエ! 虎造の森の石松やぜ。虎造はよう読みよる。何んしょ、彼は声が良えさかいな」

大阪弁に紀州弁がまじっている。言葉も内容も娘たちの気にいる筈がない。浪花節なんか下品やわと内心皆思う。代弁者はいつも信子だ。十七歳、眼鏡を掛けている。かね/″\「眼鏡は高慢たれや」