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しゅぜんじものがたり

修禅寺物語

岡本 綺堂

「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页

青空文庫

おのれ何ゆえに細工を怠りおるか。仔細をいえ、仔細を申せ。

夜叉王 御立腹おそれ入りましてござりまする。もったいなくも征夷大将軍、源氏の棟梁のお姿を刻めとあるは、職のほまれ、身の面目、いかでか等閑に存じましょうや。御用うけたまわりてすでに半年、未熟ながらも腕限り根かぎりに、夜昼となく打ちましても、意にかなうほどのもの一つもなく、さらに打ち替え作り替えて、心ならずも延引に延引をかさねましたる次第、なにとぞお察しくださりませ。

頼家 ええ、催促の都度におなじことを……。その申しわけは聞き飽いたぞ。

五郎 この上はただ延引とのみで相済むまい。いつのころまでにはかならず出来するか、あらかじめ期日をさだめてお詫を申せ。

夜叉王 その期日は申し上げられませぬ。左に鑿をもち、右に槌を持てば、面はたやすく成るものと思し召すか。家をつくり、塔を組む、番匠なんどとは事変りて、これは生なき粗木を削り、男、女、天人、夜叉、羅刹、ありとあらゆる善悪邪正のたましいを打ち込む面作師。五体にみなぎる精力が、両の腕におのずから湊まる時、わがたましいは流るるごとく彼に通いて、はじめて面も作られまする。