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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页

青空文庫

三

「はっ、恐れながら今日初めてにございます」「弓はよほど稽古をしておるな?」「さればにございます」さればと云うのだから、あとに言葉が続くかと思っていると、幾ら待ってもそれっきりなんとも云わない。

「誰に就いて学んだか」「はっ、御師範山川重郎左衛門どのに、御教授を受けましてございます」「よほどまいるな?」「はっ、……さればにございます」また「されば」である。

「さればと申すのはよほど達者ということか、それともさほどでもなしということか、どうだ」「はっ」三之丞はしずかに頭をあげたが、「さればにござります」と同じことを繰返しただけであった。

そのとき光政の胸にはっきりと三之丞のことが刻みつけられたが、それでもまだ三之丞の弓術がどれほどのものか光政は見ていなかった。的場で射術御覧の時でも、至極平凡な成績で可もなし不可もなしという程度である。しかしそう見ているうちにやがて、三之丞の真骨頂を顕わす時が来た。

三

承応二年四月光政四十三歳のときであった。安芸の国広島、四十二万石の大守浅野左少将光晟が、参覲の途上、岡山城に立ち寄って光政を訊ねた。二人は年もほぼ同じくらいでよく話の合う間柄だった。