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あにのこえ

兄の声

小川 未明

「子供の広場」1946(昭和21)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,426 字 · 9 页

青空文庫

「まあ、義ちゃんなの? お母さん、義ちゃんが帰ってきましたよ……。」と、さけんだ。その声をきいて、母も、ぼくも、ころげるようにとびだしました。兄は、泣いているのです。

「さあ、早くお上がり、どうしたの。」といって、母も泣きました。

「にいさん、なにか変わったことがあったの?」

ぼくは、いままで兄の泣いたのを見たことがなかったのと、もし出征すれば、おそらくふたたび見られないだろうと思っていたので、ついこうききました。姉も、

「義ちゃん、どうかしたの?」といって、兄の顔をのぞくようにしました。

兄は、あとから、あとから、目にあふれ出る涙を、手の甲でふきながら、頭を左右にふって、

「みんなの顔が見られて、うれしいのだ。」と、わずかに答えたのです。

「こっちへ、あがってから、ゆっくりお話しなさい。」と、母は、手を引かんばかりにして、兄がくつのひもをとくのも、もどかしげに見守っていました。

「にいさん、もういかなくてもいいの。」

「いまなん時だね。晩方までに、こちらを出て、隊へかえらなければならない。」

兄は、あいさつが終わると、これまで、自分が勉強をしたり、レコードをかけたりした、へやへいきました。