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あにのこえ

兄の声

小川 未明

「子供の広場」1946(昭和21)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,426 字 · 9 页

青空文庫

家のものは、その後も、兄がいるときと同じように、そうじはするけれど、だれも、手をつけようとしなかったので、本箱のなかも、たなのかざりも、兄が出ていったときのままとなっていて、すこしも変わっていなかったのです。

兄は、さもなつかしそうに、あたりを、見まわしていました。それから、いつもそうしたように、好きなレコードをかけました。

外国物では、アベ=マリアとか、粗朴ながら、血のつながりに、哀愁をもよおす日本の俚謡などを兄は、このみました。

「義ちゃんが、ずっとこうして、家にいてくれたらいいのにね。」と、姉はそばに立ち、鼻をつまらせていました。

「じきにかえってきますよ。そうしたら、もうどこへもいきません。」と、兄は、答えました。

「お母さんが、心配していらっしゃるから、きっと無事に帰ってね。」

晩方近く、小雨の降るなかを、兄は、隊へとかえりました。みんなが、門口まで見送りに出ると、ふりかえって挙手の礼を残して去りました。

「あんまり思いがけなかったので幽霊かと思ったわ。」と、姉はへやへもどると、母に話していました。

「公用のついでとかいいますが、よく寄ってくれましたね。