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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
美人に対し、場所に出で、会合に臨んで、すべて気おくれしない洗練の自信を得たいのが私の休学の動機だったのだからだ。
当座は寺々を訪ねたり、渡しを渡って小歌島や、向島へ行ったりして遊んだ。恋人のない私は姉と並んで歩くのが好きであった。姉もたしかに幸福そうにしていた。人々は姉を見返った。私が感心したのは、姉の商業への熱心さであった。彼女は同じ西洋店があれば、飾窓を必ず覗き、自家のに及ばないと見て初めて安心した。思うに姉は商業に生きていたのだ。
しかし毎日の事だから、私は大てい独りでぶらぶらしていた。天神山という山へ登って、松風の吹く岩の上に寝ころんで夕方までいたことがあった。
「今日はどこへ行ったの」
伯母はこう訊くのが例になった。
「山の上に臥ていましたよ」
「へへえ。今までかい? この子は商人にはなりませんぜ」
と伯母は伯父に話した。
「うむ。丸吾(私の家の屋号)の後継ぎは出来んな」
と盃を持った伯父がいった。
「百さん。あんた何になるつもり?」
と従兄が訊いた。
「小説家か、でなければ坊主」
と私は答えた。実は何になるとも考えたことは無かったのだが、意表に出ようと思ってそういった。