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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

僕は偉い人間になりたいのです」

「お前が偉い人間になる時にはお父さんはもう死んでるよ」

父はこう言いながら、今日の目的である墓石の文字の墨入れをしだした。父はもう六十近かった。私の郷里の習慣では生きているうちから法名を墓石に彫り付けてあって、朱墨を入れてあるのであった。

「お父さん、人間は皆死ぬのだから、死とは何かという事を考えなければならないのです」

「うーむ」

と言って父はまた考えた。

「校長さんからお父さんに手紙が来る筈です。私は有望だから哲学をやらせろと言って」

「まあ、その手紙でも見てみよう」

私は、満更見込みがなくもない、父は慈悲深いから泣きつけば何とか道はつくと思って、学校へ帰った。とにかく首席で卒業しよう。その卒業式の光栄を父が見たらその勢いで許してくれるだろう。

私には人生の探究心と、野心とがまだこんがらがっていた。

私に哲学を志すことをすすめたのは、当時すでに六高に入っていた香川三之助君であった。

彼は中村憲吉君の弟で、香川家の養子となっていたが、その頃真摯な、燃えるような人生への探究心を抱いていた。私の素質や、感受性や、考え方の傾向を見ぬいて、私に哲学に志すように決意を促したのであった。