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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
ただひとつ私の記憶に残っている、父の教訓的なポーズともいうべきものがある。
小学校の三年ごろ、私は教科書が手垢で汚れ、すりはげたので、新しい本にかえたくてたまらず、その本を雨あがりの道にわざと落して濡らして、持って帰ると父に言った。
「こんなに汚れたから、新しいの買って下さい」
父は本と私の顔を等分に見くらべていたが、
「そんなら私が洗い張りしてあげる」
と言った。私はあてがはずれたが、胸がドキリとしてねだる気になれなかった。
父は日本とじのその本をほぐし、一枚一枚板張りをして乾かし、にじんだ箇所には筆を入れ、表紙は堅紙(これも張物板に幾枚も張り重ねて父がつくったものだ)を当ててとじ直おし、「国語読本」という見出しも父が書いて、
「さあ、これでいいだろう」
と私に渡した。私はなさけない気がしたが、わざと落して汚したのが気がさすのと、そうまでして繕ってくれた本をいやとも言えず、仕方なくそれを学校へ持って行ったが、目立つので実に弱った。堅紙の表紙に父の「お家流」の見出しが敦厚な書体で書いてあるのが、見る毎に何かの咒文のように私の目に映った。
私がわざと本を落して汚したのが父に解ったのであろうか。