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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

そう云えば眩しげに浅二郎を見る双眸にも、今まで一度として現われたことのない、妖しい情熱の光が、ちらちらと燐のように燃えているではないか、

「いや、――欲しくありません」

浅二郎は短く答えたまま筆を続けた。

不由はかすかに太息をついた、――胸いっぱいに溢れてくる烈しい情熱。昼、お徒士町で計らずも浅二郎の真の姿を見た刹那から、堰を切ったように燃えはじめた愛情の。生れて初めて感ずる抵抗し難い欲求に、彼女の体は熱い烈しい悶えに悩んでいるのだった。

不由は、けれどそれをどう相手に伝えてよいのか分らなかった、浅二郎は見向きもせずに書き物をしている、――やがて、不由は静かに立って部屋を出た。そして二人の寝所へ入って、帯も解かずに浅二郎の来るのを待っていたのである、――すっかり夜が明けるまで……。

浅二郎が書き物をおえて、居間から出てきたのは朝食の支度ができてからだった。

「どうした、眼が赤いではないか」

食膳に向った時、源兵衛は婿の疲れた顔を見ながら訊いた、

「はい、どうやら御改革の案が建ちましたので、昨夜その試案を練ってみました」

「ほう、いよいよできたか」

源兵衛は欣然と乗出した。