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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
「太陽」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页
辰男はそっと皆なの後に寄って、黙って弟の出て行くのを見ていたが、すぐに二階へ引返して、弟を乗せた俥が浜通を過ぎるのを見下した。俥の音の消えるまで窓ぎわを離れなかった。
「良さんも行ってしもうた」いつの間にか勝代が傍に来ていた。「これで勝が出て行こうものなら、辰さんは二階に一人法師で淋しゅうなるぞな」
「………」辰男は黙ってぼんやりしていた。
「早う嫁さんを娶りなさいな。小串にちょうどよさそうなのがあって、東屋の爺さんが話を持ってきたから、も一度よく問糺して、なるべくならあれにでも極めたいと、お父さんが言うておった。少々気に入らんところがあっても我慢して、その人を嫁さんに貰うたらええにな。傍の者が皆な相応だと思うたら、辰さんもしいて否とは言わんでしょう」勝代は母親の命令で、何気ない風で兄の腹の中を索ってみた。
「……そんなことはお前が訊かいでもええ」辰男は鬱陶しい声でそう言って、自分の居間から歯磨粉と手拭をもってきて、静かに階下へ下りて井戸端へ出た。大きな酒樽にどっさり大根が漬けられてあって、大嫌いな糠味噌の臭いが鼻を襲って逆吐きそうになった。
勝代は、「何でああ変人なのであろう。