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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
「太陽」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页
八
「おれの子供の時分の気持に似てやしないかと思う。おれも家にじっとしていたらああなったかもしれないよ」
栄一は微笑しながらこう言って、弟の話を外した。
勝代はとっくに炬燵を離れて、小さい弟を連れて座敷の縁側へ出て日向ぼっこをしていた。落葉や鶏の糞で汚れた小庭へ下りて久しぶりで築山へも登ったが、昔の庭下駄は歩きつけない足にも重くって、じきに息苦しくなった。
八
栄一は毎日の日課として後の山へ上って沖を見わたした。瀬戸通いの汽船が島々のかなたにはっきり見えて、春めいた麗かな日光の讃岐の山々に煙っていることもあれば、西風が吹荒れて、海には漁船の影もなくって、北国のような暗澹たる色を現わしていることもたまにはあった。そんな風の強い日には、大きな家の中がさながら野原のようで、いくら襖や帯戸を閉めきっても、どこからか風が吹きこんで、寒さを防ぐ術もなかった。
「これでは冬籠りもできないね。早く東京へ帰ることにしようか」と、栄一は故郷の様子を見ただけで満足して、ふたたび都の小さい借家へ帰ろうとした。不漁つづきで、海鼠や飯蛸などの名産もあまり口へ入らないし、落着いて勉強もできないし、ことに家族の中に交っていると、きゅうに歳を取ったような気持になるのが厭だった。