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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
「太陽」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页
と、兄は畳みかけて訊いた。
「おもしろうないこともない……」辰男はやがて曖昧な返事をしたが、自分自身でもおもしろいともおもしろくないとも感じたことはないのだった。
「独学で何年やったって検定試験なんか受けらりゃしないぜ。ほかの学問とは違って語学は多少教師について稽古しなければ、役に立たないね」
「………」辰男は黙って目を伏せた。
「それよりゃそれだけの熱心で小学教員の試験課目を勉強して、早く正教員の資格を取った方がいいじゃないか。三十近い年齢でそれっぱかりの月給じゃしかたがないね」
「………」足許で椚の朽葉の風に翻っているのが辰男の目についていた。いやに侘しい気持になった。
「今お前の書いた英文をちょっと見たが、まるでむちゃくちゃでちっとも意味が通っていないよ。あれじゃいろんな字を並べてるのにすぎないね。三年も五年も一生懸命で頭を使って、あんなことをやってるのは愚の極だよ。発音の方はなおさら間違いだらけだろう。独案内の仮名なんか当てにしていちゃだめだぜ」
「………」
「娯楽にやるのなら何でもいいわけだが、それにしても、和歌とか発句とか田舎にいてもやれて、下手なら下手なりに人に見せられるようなものをやった方がおもしろかろうじゃないか。