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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
「太陽」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页
で、家の者は彼れの心を量りかねて、涼み台や炬燵の側での茶呑み話のおりおり、まじめの問題として持ちだされたことは二度や三度ではなかった。
「最初ヴァヰオリンを習って音楽家になりたいと言ったのを聞いてやらないんだから、それであんな風になったのじゃないかと思う」と、ある時父が思当ったように言った。
「そればかりじゃない。鼻がまだ直りきらんのでしょう。ちょっと見ると拗ねているようじゃが、五年も六年も拗ね通されるものじゃない。身体に故障があるからでさあ」と、才次は言った。
「あれじゃ商人にもなれんし、百姓にもなれまいし、まあ粥でも啜れるくらいの田地を分けてやるつもりで、抛っておくか」
とどのつまり、こう解決をつけて、もはや彼れの身の上を誰も問題にはしなくなった。見馴れた目には、彼れの行為もさして不思議には映らなくなった。
十一時が鳴ると、辰男は椅子を離れて押入から夜具を取りだした。そして、便所へ行った帰りに、階下の炬燵の残り火をかき起して、半身をずりこませて、気ままに温まった。おのずから睡気の差すまで、こうして過している二三十分間が、彼れには一日じゅうの最も楽しい時間であった……今日新に習い覚えた英語を口の中で繰返していたが、ふと弟の明日の出立が思いだされて、自分が眠っている間に出かけられては残念な気がしたので、例より