轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
「太陽」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页
も早目に炬燵を出た。
閾で仕切られているだけで、かつて襖の立てられたことのない自分の居間で、短い敷蒲団に足を縮めて横になって目を閉じた。いつもならば、目を閉じるとすぐに睡眠に落ちるのだが、今夜は慣例を破って、まだ睡気の催さぬ前に炬燵を離れたためか、頭が冴えて眼つきが悪かった。
どこかの障子を破っている猫の爪音が煩さく耳についた。辰男は「シッシッ」と言いながら畳をパタパタと叩いたが、やがてランプを点けて音のする方へ行ってみると、猫はもはや障子の破れ目から縁側へ飛下りて啼声を立てていた。雨戸を少し開けて猫を屋根の方へ追いだしながら、辰男は久しぶりに自分の村の夜景色を眺めた。十数町を隔てた小学校へ往来するほかには、春にも秋にもほとんど一歩も門を出たことがないのみか、家の周囲にどんな騒ぎがしていようとも、めったに窓の外へ顔出したことがなかったので、平生雨戸一枚隔てた外の景色とは馴染が薄いのだった。
夕月がすでに落ちて、幾百もの松明が入江の一方に絵のように光っている。耳をすますと小波の音が幽かに聞えたが、空も海も死んだように鎮まっている。宮を囲んだ老松は陰気な影を映している。