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ろくがつ
六月
相馬 泰三
「早稲田文学」1913(大正2)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页
日暮れごろから、木挽町のさる料理屋の大広間で、社の懇親会があった。雨がびしょびしょ降っていた。庭の木立が白く煙っていた。池の岸に白と紫の大輪の杜若が艶に水々しく咲いていた。離れの小座敷の縁先に二十三四歳ぐらいの色白の粋な男が、しょんぼり立って、人でも待っているらしく庭をながめていた。池の水の面には雨が描き出す小さな波紋が、音もなく夢のように数限りもなくちらちらと入り乱れていた。途で一緒になった丸顔の小造りの芸者が、下の方のよそのお座敷へ来ていた。……右隣りへは一面のS文学士が坐った。左隣りには三面の編輯にいるAという早稲田出の新進作家がいた。自分を社へ紹介してくれた人で、そんなに親しくはないが旧くから知ってるので窮屈でなくてよかった。その次ぎが二面のT法学士に三面のY君、……このあたりは、社内の他の人たちから「新人」と呼ばれている一群で占領されていた。灯がつくと、芸者と雛妓とがどやどや厭に品をつくって入って来た。彼らはいずれも(たかがへぼ新聞記者が)といったような、お客を充分みくびった顔をしてよそよそしい世辞笑いをしながらお酌をして廻った。ずらりとそこに居列んだ面々も、(そんなことは万々承知だ)といったような、いかにも見透かしたようなふうをしてその酌を受けていた。