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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

「つきましては検視役として、御側より井関藤也どの、またあれなる佐藤喜十郎をお差添え願います」

「よし、両名の者みとどけてまいれ」

井関藤也はびくりとした。

「私は辞退仕ります」藤也は云った、「――私は、私はそのお役には適しません」

「貴方は小森どのと親しかった」と代二郎が云った、「――除村久良馬の切腹をみとどけるのに、貴方ほど適した人はない筈です。それとも除村を怖れて辞退なさるのですか」

「井関、みぐるしいぞ」右京亮が叫んだ、「――余が申しつけるのだ、まいれ」

藤也は平伏した。代二郎は佐藤喜十郎を見て、それから静かに座を辷った。

井関藤也は臆していた。右京亮もそんなに激怒していなかったら、彼を検視役には出さなかったかもしれない。「除村を怖れてか、――」という代二郎の言葉は、右京亮の怒りを煽ったうえに、もっと強く藤也の拒絶を抑えたようであった。佐藤喜十郎もおちつかないようすだった、彼は徒士組総支配だから登城していただけで、この騒ぎには巻きこまれたくなかったし、もとよりそんな役は引受けたくなかった。

――これはただでは済まないぞ。

彼はそう思った。除村がおとなしく腹を切るとは考えられない、集まっている者たちが切らせもしないだろう。