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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

四

そういう呟きとはべつに、彼の脳裡ではしきりに対策が立てられていた。

「代二郎さん、――」

廊下から茂登女の呼ぶ声がした。障子があいたので振返ると、母が除村の桃世を伴れて入って来た。桃世はもう十八歳になり、躯の小柄なところは変らないが、肌の色は白く、少し赭かった髪の毛も艶やかに黒くたっぷりとして、(茂登女の予言したほどではないが)縹緻もずっとひきたってみえた。

「除村から縁を切ってまいりました」桃世は手をついて云った、「――どうぞこれからお頼み申します」

「待っていたところです」と代二郎が云った、「――早速ですがこれから登城しますから、母に訊いて支度をして下さい」

「除村さんへいらっしゃるんでしょう」

茂登女がそう訊くと、代二郎はそれには答えないで桃世に云った。

「登城ですよ、麻裃を出して下さい」

四

桃世はおちついて着替えを助けた。少し蒼ざめてはいるが、動顛したようすはどこにもなかった。代二郎は袴の紐を結びながら、劬るように笑いかけた。

「除村が私を湯の山へ伴れていって、道楽をさせようとしたことを知ってますか」

桃世は「はい」と頷いて、代二郎を見あげながら、羞ずかしそうに微笑した。