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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

三

「どうせいっしょには成れないんだ」

初めに彼はこう云った。

「お互いにあっさりいこう」

ええそうしましょうと云って僅かに半月、五たびめに逢ったとき、むしろお民のほうからすすんでふかい契りができてしまった。

「いっしょになんかなれなくってもいいの、ただあなたが好きだというだけ、こうして会うほかにはなんにも望みはないわ」

「夫婦になっても三年か五年、くすぶった気持で厭いや一緒に暮すよりも、好きなうちこうしてたのしく逢い、飽きたらさっぱり別れてしまう、これが人間らしい生き方じゃあないか」

「その約束をしましょう、好きなうちは逢う、飽きたら飽きたと隠さずに云う、そしてあとくされなしに別れる、……きっとですよ」

こうして夏から秋ぐちまで、ひとめを忍ぶ逢う瀬がつづいたのである。

三

喜右衛門が来て二日経った。明日あたりはまた返辞を聞きに来るであろう、しかしお民の気持はどっちともきまらなかった。……喜右衛門から世話をしようという話の出たのは、夏のはじめ頃だった、この二見浦で同じ料理茶屋をしている田河屋というのが売に出ている。それを買ってお民を主婦に入れるからという条件なのだ。