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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
そしてそのいずれもが、個人主義の範囲内に止っているので、彼等はやはり酒でも飲まなければやりきれないのであろう。私はこの点を彼等に許してやりたい。それで、彼等が島村のことを危ぶむのも、尤もだと思うのだった。島村の経済上の破綻は、やがてその精神上の破綻となるかも知れないし、彼が我々の間から失踪して、静葉と共に隠れるのは、情意の不健全を証するものかも知れなかった。要するに、彼等はもう島村を信用していなかった。島村はただ没落過程を辿っているものと思われた。そして、斜面を転り落つる石については、ただ見送るより外に方法はない。なまじい、手を出せば、自分の手を傷つけるばかりだ。而も島村はかなり大きな石だった。然し、私は心の底で、まだ島村を信じてるところがあった。それでも、もう随分と匙を投げたくなることがあった。彼はいつも私に借金の奔走を頼むのだった。静葉のことではない、外のことだ、と彼は云ったが、それはどうやら本当らしかった。然し何のために金がいるのかは打明けなかった。そして金額も、時によって大小さまざまだった。その上、いつも期限が切迫していて、一週間以内とか五日以内とかだった。