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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

自分は羽織の衿を外套の襟のように立てて坐っている。昼になると、小使いがゴザの外のじかにペタリと廊下へ弁当を置き、白湯の椀を置いた。弁当から二尺と隔らないところに看守の泥靴がある。

保護室があいた。見ると、今野大力が洋服のまま、体を左右にふるような歩きつきで出て来、こっちへ向って色の悪い顔で頬笑み、それから流しの前へ股をひらいて立って、ウガイを始めた。風邪で喉が腫れ、熱が高いのである。

頃合いを見て自分はゴザから立ち上った。そして彼の横をゆっくり通りすがって便所へ曲りしな小声で訊いた。

「ニュースない?」

「蔵原、やっぱりひとりらしい」

「…………」

留置場の便所には戸がない。流しから曲ったところが三尺に一間のコンクリで、突当りに曇った四角い鏡が吊ってある。看守が用便中のものを監視する為の仕かけである。窓のない暗い便所にかがんでいる間、自分の頭は細かくいろいろな方面に働いた。そして、聞いたばかりの短い言葉から推察されるあらゆる外の情勢を理解しようとして貪慾になった。出て来て手を洗いながら又訊いた。

「拘留ついた?」

「中川の奴、二十日だって。……ブル新、盛に『コップ』