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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

陣十郎の情婦のお妻であった。

「姐御、お前さんも行くといいんだがな」

一人の男がこう云って、そそのかすようにお妻を見た。

「そうさねえそうやって、お前さんたちが揃って出かけて行くのを見ると、一緒に行きたいような気持がするよ」

まんざらお世辞でもなさそうに、お妻はそう云って薄笑いをした。

「陣十郎さんばかりが男じゃアなし、他に男だってあろうじゃアないか。そうそういつもへばり付いてばかりいずに、俺らと旅へ出るのもいいぜ」

こうもう一人の男が云った。

「あたしを旅へしょびいて行くほどの、好い男がどこかにいるかしら、お前さん達のお仲間の中にさ」

云い云い、お妻は又薄笑いをして、香具師達を見廻した。

「俺じゃア駄目かな、え、俺じゃア」と、猿廻しが顔を出した。

2

「十年若けりゃア物になるが」

お妻はむしろ朗かに笑った。

お妻は秩父の産れであり、秩父香具師の一人であった。が、ずっと若い頃に、草深い故郷に見切りをつけ、広い世界へ出て行って、香具師などというケチなものよりもっと烈しい、もっと罪の深い、そうしてもっと度胸の入る、凄い商売へ入り込んでしまった。

女邯鄲師――それになってしまった。