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べんきょうき
勉強記
「文体 第二巻第五号(五月増大号)」1939(昭和14)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,952 字 · 36 页
こうして不退転の決意をもって巴里密航の旅費を累積しはじめたのだが、同時に、忽ち、栄養不良の極に達して、亡者にちかい姿になった。按吉は不安であった。今度は盲腸どころじゃない。念願の金がたまった瞬間に、幽明境を異にして、魂魄だけが水ものまず歯ぎしりして巴里へ走って行きそうな暗い予感がするのである。然し龍海さんは落ちついていて、目的のためには、栄養不良もてんで眼中におかなかった。
丁度そのころの話である。
龍海さんの先輩に当る一人の坊主――年の頃は四十二三、すでに所属の宗派では著名な人で、管長の腰巾着をつとめており、何代目かの管長候補の一人ぐらいに目されている坊主であったが、これが何かの因縁で、ある日、按吉と龍海さんを引きつれて、浅草のとある料理屋で酒をのんだ。
坊主が般若湯をのむというのは落語や小咄に馴染のことだが、あれは大概山寺のお経もろくに知らないような生臭坊主で、何代目かの管長候補に目されている高僧は流石に違う。却々もって、八さん熊さんと同列に落語の中の人物になるような頓間な飲み方はしないのである。
ここでも言いもらしてはならないことは、先ず、第一に、温顔であった。