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ばけいちょう
化銀杏
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页
)さ、それが夜の十時すぎだから恐しいじゃあないかえ。何だか狂人じみてるねえ。
旦那を残し、坊やはその時分五歳でね、それを連れて金沢へ帰ると、さっぱりしてその居心の可かったっちゃあない。坊もまた大変に喜んだのさ。
それがというと、坊やも乳児の時から父親にゃあちっとも馴染まないで、少しものごころが着いて来ると、顔を見ちゃ泣出してね。草履を穿いて、ちょこちょこ戸外へ遊びに出るようになると、情ないじゃあないかえ。家へ入ろうとしちゃあ、いつでもさ。外戸の隙からそッと透見をして、小さな口で、(母様、父様家に居るの?)と聞くんだよ。
(ああ。)と返事をすると、そのまま家へ入らないで、ものの欲くなった時分でも、また遊びに行ってしまって、父様居ない、というと、いそいそ入って来ちゃあ、私が針仕事をしている肩へつかまって。」
と声に力を籠めたりけるが、追愛の情の堪え難かりけむ、ぶるぶると身を震わし、見る見る面の色激して、突然長火鉢の上に蔽われかかり、真白き雪の腕もて、少年の頸を掻抱き、
「こんな風に。」
とものぐるわしく、真面目になりたる少年を、惚々と打まもり、
「私の顔を覗き込んじゃあ、(母様)ッて、(母様)ッて呼んでよ。