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ばけいちょう

化銀杏

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页

青空文庫

その念が段々嵩じて、朝から晩まで、寝てからも同一ことを考えてて、どうしてもその了簡がなおらないで、後暗いことはないけれど、何に着け、彼に着け、ちょっとの間もその念が離れやしない。始終そればかりが気にかかって、何をしても手に着かないしね、じっと考えこんでいる時なんざ、なおのこと、何にも思わないでその事ばかり。ああ、人の妻の身で、何たる恐しい了簡だろうと、心の鬼に責められちゃあ、片時も気がやすまらないで、始終胸がどきどきする。

それがというと、私の胸にあることを、人に見付かりやしまいかと、そう思うから恐怖んだよ。

わけても、旦那に顔を見られるたびに、あの眼が、何だか腹の中まで見透すようで、おどおどしずにゃいられない。(貞)ッて一声呼ばれると、直ぐその、あとの句が、(お前、吾の死ぬのが待遠いだろう。)とこう来るだろうと思うから、はッとしないじゃいられないわね。それで何ぞ外のことを言われると、ほッと気が休まって、その嬉しさっちゃないもんだから、用でも、何でも、いそいそする。

それにこうやって、ここへ坐って、一人でものを考えてる時は、頭の中で、ぐるぐるぐるぐる、(死ねば可い)という、鬼か、蛇か、何ともいわれない可恐ものが、私の眼にも見えるように、眼前に駈まわっているもんだから、自分ながら恐しくッて、観音様を念じ