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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
いうてたのんですが、夫にいわしたら、愛してるもんこないにいじめるはずない、僕を疲れさして、情慾も何も起らんように麻痺さしといて、二人で好きな真似しょういう計略やないかいいます。そいでおかしいのんは晩御飯の時やかい、お互に睡眠剤で胃イ悪うしてて、食慾ちょっともあれしませんのんに、お腹空いてたら早う薬循りますさかい、なるだけ余計喰べとことして、孰方も相手の御飯の数勘定して競争で詰め込みますのんで、「そない喰べたら薬利けへんよって、二人とも二饌以上喰べることならん」いいなさって、しまいには光子さんお膳の傍に眼エ光らして、監督してなさるようになったんのんです。何せあの頃の生理状態いいましたら、今考えでも無事でいられたのん不思議なぐらいで、胃イ衰弱してるとこい毎日飲まされる薬の分量多いのんで、一時に吸収出来へんせえか、お昼になってもしょッちゅう意識ぼんやりしてて、生きてるのんか死んでるのんか分らんみたいに、顔色ますます青うなる。体は痩せて来る。それより困るのんは感覚鈍うなって来る。ところが光子さんの方は、そないに二人苦しめて御飯の制限までしときながら、自分いうたら何ぼでもおいしいもん喰べて、つやつやしい血色してなさる。