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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

」「そんならあんた、あれからずうッと大阪い廻ってたんか?」「ふん、そやねん。」「あんたそこに誰といるのん?」「そら姉ちゃんの知らん人やねん……あてどないしてもあの着物なかったら今晩家い帰られへんよって、どうぞどうぞ一生のお願いやさかい、あれ届けてもらわれへんかしらん?」――光子さんは泣き声出してなさるのんですが、私は私であんまり意外やったんで、胸がわくわくして、膝頭までガタガタふるえが来ました。何処まで届けたらええのんかいいますと、南の太左衛門橋筋の、笠屋町の井筒いう家やいいますねんけど、そんな料理屋聞いたことありません。そして着物の外に帯も、帯留も、帯上げも、幸いみんな揃いのものがあったんで、それ持って来てくれいうのんは分るのですが、けったいなんは腰帯やぼてや、伊達巻や、足袋までも盗まれたいうのんで、「そんなら半襟は?」いいましたら、「襦袢は助かってん」いうのんです。誰ぞたしかな人に持たして、今から一時間以内、おそても十時までにいいますけど、うかッとした者頼む訳に行きませんし、どないしても私が自分で自動車飛ばすより仕様があれしません。「あてが行ってもかめへんか」