轻松读懂日语经典作品
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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
光子さんと私とが奥の方い並んで、お梅どんと綿貫とがスペアシートい腰かけて、四人がむうッと向い合うたなり一と言も口をきかんと、車はどんどん走って行きました。武庫の大橋いかかったときに男が始めて、「どないします? やっぱり電車で帰ったようにせんと工合わるい思いますが、……」と、ふっと考えついたようにいい出して、「なあ、光子さん、何処で自動車返したらええか知らん?」いうのんでした。それが光子さんの家いうのんは蘆屋川の停留所から川の西をもっと山の方い行って、あそこに汐見桜いう名高い桜あるついその近所なんでして、電車筋からほんの五、六丁ですねんけど、途中に淋しい松原などあるのんで、よう追い剥ぎやの強姦やのがあったりしてえらい物騒ですよって、いッつも晩おそう帰るときにはお梅どんが附いてるときでも停留所の前から俥に乗って行きますさかい、あそこまで自動車着けたらええいうたり、いや、そらいかん、俥屋が顔知ってるよって何処ぞもっと手前の方で降りた方がええいうたり、そんなことからお梅どんもぼつぼつものいい出しましたけど、それでも光子さんだけはやっぱり一と言もいいなさらんと、ときどきさし向いに腰かけてる綿貫の方をジーッと見つめては、何やひそひそ眼エで物言うて溜息してなさるようなんです。