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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

と、知って男の思う壺に嵌まって行くのんです。考えてみるとお梅どんかってやっぱり光子さんや綿貫とぐるになってたん違いないのんで、やがて橋のとこで車降りて土手の下の真っ暗な路いかかりましたら、「なあ奥様、こんな闇夜に男の人いててくれはれしまへなんだら、恐うて歩かれしまへんなあ」と、用もないのんに私掴まえて、こないだこの路で何処其処のとうちゃんがこんな目エに遭いはったいうような話休みなしにしかけて、なるだけあとの二人より離れて歩くようにするのんです。二人は五、六間うしろの方からまだ何や知らん相談しながら来るらしいて、「ふん」とか「はあ」とかいう光子さんの声がかすかに聞えてるのんでした。

停留所の前で男が帰ってしまいますと、また三人は黙り込んで、あそこから俥で光子さんの家まで行きました。「まあ、まあ、ほんまに、何でこないにおそおましてん」いいながらお母様が出て来なさって、「いつもいつもお邪魔に上りまして御厄介になりますばっかりで」と、えらい私に気の毒がっていろいろお礼いいなさるのんですが、こっちは私も光子さんもけったいな顔してますのんで、長いことしゃべってたらぼろ出る思て、自動車呼びましょういうてくれはりますのんを「いいえ、俥待たしてあります」