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なんがをかくはなし
南画を描く話
中谷 宇吉郎
「中央公論」1941(昭和16)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 页
紙は満洲へ行った時に、奉天の城内までわざわざ行って沢山買って来たし、墨も待望の品が手に入ったし、判も朱泥も揃ったので、もうあとは描きさえすればよいわけである。ところがそのうちにそろそろ北海道の早い木枯が吹き始める頃になった。写生をするにも野趣のある草花はないし、花屋で売っている華かな花を描くには実力が要るし、ちょっと困った。
それでやはり摸写をすることにした。もっとも今更蘭竹から始めて、十年猛勉強をして、やっと田舎廻りの安画家の高弟程度の絵が描けるようになったのでも余り面白くない。色々考えた末、今までの日本画家が余り描かなかったような題材を選べば一番安全であるという明白な事実に気がついた。それで『日本魚類図説』と『日本蟹類図説』とを買って来た。
この本はどちらも原色版の写真の集成で、ちゃんとした学術的なものである。芸術的な意図は全然ない本であるが、精密な写真と忠実な色彩とでなっている魚や蟹の図は、よく見ていると益々美しく見えて来る。ちょっと時間の半端が出たりくたびれたりした時などに、当てもなく開いて、色々な魚や蟹の姿に見入りながら、どう描いたらこれが名画になるかなと、ぼんやり考えているのは、大変楽しみなものである。