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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

」

「え、なぜ。」

「なぜだか、何でも分るの。だからあたし、恐いわ。」

光子は眼を据えて、縋りつくように彼の顔を見入ってきた。彼は唇をかみしめた。

「これから、何でも私が引受けてあげます、ね。みな打ち明けるんですよ。そして、お父さんに叱られるようなことがあったら、私のところへ逃げていらっしゃい。」

「そんなことをして……。」

「構やしません。あんなひどい……。」

彼は変に不気味な気持と憤ろしい気持とを同時に感じた。

それをじっと我慢して、いろいろ光子を慰めてやってから、階下に降りてゆくと、房子が茶の間で針仕事をしていた。その善良な鈍感な顔を見て、彼はいきなりきめつけてやった。

「光子さんはやはり、恐い夢をみて夜眠れないんです。それを今迄放っとくなんて、余りひどいじゃありませんか。」

「まあー、夢をみて眠れないのですって……。」

「そうです。それもあなた達が、差配をだますために、嘘を本当のように云わせようとしたからです。」

房子は彼の激しい調子に、きょとんとした顔付で呟いた。

「わたしは止めたんですが、宅が強いて云うものですから……。」

「松木さんがどんなことを云われようと、あなたは母親じゃありませんか。