轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ふるいど
古井戸
豊島 与志雄
「中央公論」1925(大正14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页
初めは、彼が座敷にいる間は茶の間の方に避けていたが、やがては黙ってはいり込んできて、彼と遠い隅の方に坐って、煙草を吹かしたり書類を見たりしだした。然し絶えず光子の方に気をとられてることは、その様子で明かだった。
それが彼には最もひどい苦痛だった。光子は父親が来ると眼をじろりとさしたが、それからすぐに、全く無関心な様子に返っていった。然し彼が出て行って暫くやって来ないと、すぐ呼びたてた。彼は息をつめながら、松木が控えている室にはいって来なければならなかった。そしていくら我慢をしても、松木の存在の方へ次第に意識がねじ向けられていった。じりじりと汗がにじみ出すような気持だった。どうしてそう松木の存在が気になるか、どうしてそう憎まずにはいられないか、自分でも分らなかった。余り苦しくなると、彼はわざと光子の方へ寄っていって、話をしようとしたが光子は口を利くのを喜ばない風だった。時々見せる微笑も次第に消えて、天井ばかり見つめていて、それから眼瞼を閉じた。暫くたつと、大きな露わな眼で、彼の方をじっと眺めていた。彼が見返すと、微笑らしい影を頬に浮べた。
光子のために松木の存在なんか無視してやれ、とそう彼は心の中で誓った。