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こきんしゅうまきのご

古今集巻之五

山本 周五郎

「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页

青空文庫

……永井は妻女に死なれたばかりだ、と岡本は初めに云って来た。だからおれは彼のためにできるだけのことをするつもりだったが、丹野が付いている限り、そして彼が丹野とはなれない限り、おれには彼をどうすることもできない、どうかこのことをよく覚えていてもらいたい。

丹野真はこれに対して、「河森はおせっかいをしすぎる」と云って来た。いま永井に必要なのは気持の転換と、将来への希望と勇気をよび起こすことだ。おれが茶屋遊びに伴れだしたことはまえにも書いたが、十九やはたちではあるまいし、三十二にもなっている男、それも永井主計ほどの男が、茶屋遊びくらいで堕落する筈はないだろう。現に、永井にうちこんでいる芸妓が二人いる。柳橋ではどちらも評判の売れっ妓で、屋敷まで文をよこすほどのぼせあがっているが、永井はまるで見向きもしない。酒も強くなったが、酔っても陰気になるばかりで、浮かれて騒ぐなどという例はいちどもないし、独りで遊びに行くことなどもない。……それを河森はうるさく責める、永井を蕩児にする気か、と云っておれを責め、丹野とつきあうな、というふうに永井を責めるらしい。永井は黙っているが、おれはほかの者からそれを聞いて、困ったやつだと思っている。