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こきんしゅうまきのご

古今集巻之五

山本 周五郎

「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页

青空文庫

六

「諄いぞ」と云って主計は起き直った、「本気な話はもうわかった、酒をくれ」

「ああびっくりした」とお袖が云った、「なにかお気に障ったんですか」

六

「そうじゃない、いい話だ」主計は小光に酌をさせながら云った、「いい話なんだから、諄くないほうがいいんだ」

涙が出て来そうだな、と主計は思った。どうして涙が出そうなのか、お袖の話がそれほど感動させたのか、杉江に冷たかったことを悔むためか。そうじゃない、お袖の話なんぞありふれたものだ。杉江に対しても、悔むほど冷たかったとは思えない。そんなことじゃないさ、おれは途方にくれているんだ。杉江が恋しくって、憎くって、おれ自身が自分のようではなくなっちまって、ありとあらゆるものが疑わしく、なにがしんじつなのかわからなくなって、ただもう途方にくれているだけなんだ。よかった、涙は出なかった。主計は小光へ眼を向けた。この女はおれと寝たがっている、小奴もそうだ。小奴のほうがこれより縹緻はいい、だが小光だって悪くはないさ。どうして寝ないんだ。

「あたしやさしい男なんて嫌いよ」と小光が云っていた、「へんに親切でやさしい人なんてむしずがはしるわ、あたしは黙って屹としている人が好き、気にいらないことがあっても小言なんか云うより、黙ってぴしゃっとぶつような人でなければいやだわ」