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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「やかましいからよ。うなるのでな」

「ははあ、それでは謡のことか」

「うん、そうとも、他に何がある」

「我がままな奴だな。こういってやれ。ここは銚子獅子ヶ岩、向こうは荒海太平洋だ。あたり近所に人家はない。謡おうとうなろうと勝手だとな。その旦ツクにいってやれ」

「うんにゃ、駄目だ。おれが叱られる」

「よかろう。勝手に叱られるさ」

「おれが困るよ。だから頼む。……第一声が透り過ぎらあ。洞間声っていう奴だからな」

「洞間声だって? こいつは助からぬ。アッハッハッハッ、いや面白い」

「面白くはねえよ。面白いものか。叱られて何んの面白いものか」

「よっぽど解らずやの旦那だな」

「フン、何んとでもいうがいいや」

「いったい誰だ? お前の旦那は?」

「お金持ちだよ。大金持ちだ」

「金があっても趣味がなければ、馬や牛と大差ないな」

厳重を極めた別荘普請

「だがお前の主人というのは、いったいどこに住んでるのか?」

「お前さんそいつを知らねえのか」

「知らないとも、知る訳がない」

「だが、やしきは知ってる筈だ」

「お前の主人のやしきをな?」

「うんそうさ、有名だからな」

「いいや、おれはちっとも知らない」